建築家の視点から見ると、一戸建てのリフォームに全館空調を導入することは、非常に知的な挑戦であり、同時にやりがいのある仕事です。新築であればダクトの通り道を自由に設計できますが、リフォームでは「既存の構造」という強力な制約が存在するからです。一階と二階の間を通る太い梁、外せない通し柱、さらには低く抑えられた天井高など、全館空調に必要な直径十センチから十五センチのダクトを通すための「ふかし壁」や「下がり天井」を、いかにデザインの中に自然に溶け込ませるかが、私たちの腕の見せ所となります。時として、ダクトを隠すための天井の段差を逆手に取り、そこに間接照明を仕込んで空間のアクセントにするような、リフォームならではの工夫が生まれることもあります。全館空調リフォームの設計で最も配慮するのは、機械室(空調室)の配置です。家全体に空気を送る中心となる場所を、いかに生活動線を邪魔せず、かつメンテナンスがしやすい場所に配置するか。また、機械の動作音が寝室に響かないような防音配慮も欠かせません。こうした細かなパズルを組み上げていくことで、それまで「個室の集まり」だった古い家が、一つの大きな「空気の塊」として繋がっていきます。私たちが全館空調をお勧めするのは、単に便利だからだけではありません。壁を取り払って大空間のリビングを作ったり、吹き抜けを設けたりしても、全館空調があれば「冬場に足元が寒い」といった従来の開放感の欠点を完全にカバーできるからです。これにより、リフォームにおける空間デザインの自由度が飛躍的に向上します。また、全館空調を導入する家庭では、洗濯物を室内干しするスペースをあらかじめ計画することが多いです。家中が一定の湿度と空気循環に保たれているため、梅雨時でも洗濯物が驚くほど早く乾き、生活感が表に出にくい住まいが実現します。リフォームにおける全館空調は、単なる温度調整の機械ではなく、家の構造、意匠、そして住む人のライフスタイルを劇的に変えるための強力な「空間構成ツール」なのです。既存の建物の魅力を活かしつつ、最新の空調技術を融合させるプロセスは、住まいという物語に新しい一章を加えるような、非常に豊かな創造的行為だと言えるでしょう。
建築家が語るリフォームでの全館空調設計の難しさと魅力